2023/03/06
今回は、抜髄(ばつずい)後の矯正治療についてお話していきたいと思います。
患者さんから稀に、過去に虫歯の治療で神経を抜いている(抜髄)のですが、矯正治療は可能でしょうかという質問を受けることがあります。
過去に虫歯を経験したという人も少なくはないと思いますので、こういった経験がある方の注意点などお伝えしていきます。
まず結論から申し上げますと、歯根膜(しこんまく)と言われる歯茎の中に埋まっている歯根の表面部分が健康であれば矯正治療は行うことができます。
しかし、虫歯治療で被せ物をしている場合や、欠損している歯が多い場合は注意が必要です。
・欠損した歯がある場合の治療
虫歯や歯周病などで過去に抜歯をして、そこから時間が経過しているという場合は、歯槽骨が吸収されて細くなってしまっていることがあります。
そこに無理矢理歯を動かしてしまうと、歯根が飛び出してしまうことなどもありますので治療に制限が掛かることがあります。
また、動かせるだけの歯槽骨が残っていても、通常より慎重に治療を行う必要があるため少し時間がかかることもあります。
・被せ物がある場合の治療
被せ物も種類があるため、形状や材質での判断になりますが、ブリッジなどで隣の歯と固定されている場合は歯が動きにくくなるため、一度外していただく必要があります。
また、矯正治療を行うにあたって、歯がきれいに並んできたときに周りの歯との大きさなどのバランスが取れないと、その部分の被せ物を少し調整する必要もあります。
この様に、患者さんの状態によって治療が難しいこともありますが、治療方法の工夫などで矯正治療を行う事が可能な場合が多いです。
また、もし診査・診断をした上で抜歯が必要という場合は、状態があまりよくない歯を抜歯の対象にするという事も検討出来ます。
ただ、全体的なバランスや治療期間などが変わってくるため、患者さんと相談して何を優先するかを決めたうえで治療を進める必要があります。
矯正治療によってきれいな歯並びを手に入れることができると、ブラッシングのやりやすさなどが格段に変わります。
結果として虫歯や歯周病のリスクを軽減することに繋がりますので、過去に虫歯で抜髄をしたという痛い思いをしたことがある方は、これからの人生で残った歯の健康について少し検討してみるのはいかがでしょうか。
わからないことや不安なことがある場合はいつでも気軽にご相談ください。
2023/02/09
今回は、前歯の部分矯正についてお話していきたいと思います。
コロナ禍でマスク生活が当たり前になっている中、今のうちに矯正治療をしてしまいたいという要望を受けることも増えています。
そんな中で、「矯正治療に掛かる費用が安い」「治療期間が短くなる」という口コミなどを見て、部分矯正を希望して来られる方も居ます。
ですが、部分矯正は全ての方が出来るわけではないので、どの様な方が適応可能なのかについて詳しく紹介します。
・軽度な叢生
前歯部に少しだけ叢生(デコボコ、乱ぐい歯)があるだけという方は適応できることが多いです。
また、少しだけ前歯部に隙間がある、いわゆるすきっ歯の方や、1歯だけ歯がねじれて生えているケースなども治療できることもあります。
ただ、八重歯など歯が歯列から大きくはみ出していたり、隣り合う歯の重なりが大きい場合は治療できないこともあります。
・軽度な上顎前突
前歯の位置は悪くないが、歯が外に傾いていることによって上顎前突(出っ歯)になっているというケースは部分矯正で治せることがあります。
骨格が前に出ていたり、上顎の歯列全体が前方に突出しているケースは部分矯正で治療することはお勧めしません。
・軽度な下顎前突
上に書いた軽度な上顎前突と反対に、位置は悪くないが歯の傾きだけで下顎前突(受け口、しゃくれ、反対咬合)になっているという方は部分矯正の適応が出来ることがあります。
ただ、下顎前突は骨格性の症例であることが多いので、かなり稀なケースだという事はご理解ください。
・矯正治療後の後戻り
上とも重なることがありますが、矯正治療を受けた後、後戻りで少しだけ叢生などが出てしまっているというケースも適応できることがあります。
この様に、部分矯正で治療ができるケースは軽度な症例というのが前提になってしまいます。
というのも、部分矯正で並べるだけであればどの様な症例でも可能なのですが、臼歯部がしっかりと噛み合わさっていないと咀嚼などで力が掛かって徐々に歯列が乱れてくることに繋がります。
また、一見並んだように見えても上下の前歯が咬み合わず、食べ物を噛み切れないという事も起こりえます。
部分矯正の可否はしっかりと歯列全体の診査・診断をして判断してみないと分かりません。ただ治療可能であれば費用や治療期間などメリットも確かにありますので、気になっている方などは一度相談に来ていただけたらと思います。
2023/01/03
最近ではwithコロナの生活にも慣れてきて、マスクをする生活が当たり前になってきています。
日本人はとても器用なため、マスクをしたままでも目元の動きなどでその人の感情などがある程度読み取れるという話を聞いたことがあります。
目は口程に物を言うといいますが、そうはいってもやはりマスクをしたままだとすべての感情・表情を読み取るのは難しく、外した時に思っていた印象と違うなと思うケースも多々あるのではないかと思います。
これに対しアメリカなどでは、発音の際に口元を大きく開けて発音し、笑う時にも歯を見せてスマイルを作るというのが当たり前の文化と言われており、口元の印象をとても大事にしています。
また、日本人があまり歯並びや口元の綺麗さにこだわっていないと言われるエピソードで印象に残っているものがあります。
2002年に共催となった日韓ワールドカップの際、韓国のソウルで地元の人が韓国人と日本人を見分ける基準として「悪い歯並びと濃いメイク」で判断していたという声もあったそうです。
遠いアメリカと美意識の違いがあるというのはまだ納得ができるのですが、アジアのお隣である韓国ともそれほど意識の違いがあるのだと少し考えさせられるようなお話でした。
とはいえ、それは昔のお話なので最近は以前よりも歯並びを気にする人が増えてきているように感じます。
マスクをしているうちに矯正治療を受けたいというケースが増えているのはもちろん、マスクをつけているときやWEB会議などで滑舌や発音が悪く相手に聞き取ってもらいにくいため治療を受けたいといった見た目以外に関する相談も増えてきました。
不正咬合が原因で、上下の歯の噛み合わせが悪く隙間ができてしまうと、「サ行」の発音がしづらくなる場合があります。
サ行は「歯擦音」といい、上下の歯を擦り合わせ、その隙間に息を通すことによって発音するため、上下の歯が噛み合わない状態では正確に発音することが難しくなります。
また、日本語よりも英語の方が発音の区分けが細かいため、正確に発音ができないと言葉の意味も変わってくるので、伝えたいこともうまく伝わらないという場合も考えられます。
不正咬合によって歯の隙間から空気が漏れてしまうと、特に英語の「s」と「th」の場合、前歯の間に舌を入れて発音する「th」も、ネイティブの方には正しく「th」の発音に聞こえないことがあります。
コロナ禍で人とのコミュニケーションの取り方が徐々に変わってきました。
おそらくマスク生活がなくなっても、ウェブ会議などは当たり前に続くと思います。
笑顔や美容的側面から治療をするのはもちろん大切ですが、発音や機能的な側面からも矯正治療について考えて頂ければと思います。
2022/12/21
今回は、主に矯正相談に来られる前の話になりますが、質問事項についてまとめておいていただくことの重要性についてお話していきます。
こちらを読んでいただいている方は矯正治療前、もしくは検討中という方が多いかと思いますので、まずは矯正治療の流れについて紹介していきます。
1、カウンセリング
カウンセリングはお口の悩みや治療に関する質問や相談をする場です。
なぜ治療をしようと思ったのか、どこが気になるのかといった主訴を歯科医師に伝えて、歯列矯正のメリットやデメリット、装置の種類、おおよその治療期間、通院回数、費用など、歯や治療に関する説明をいたします。患者さんごとに考えていること、求めていることは全く違いますので、ひらの矯正歯科としてもとても大切にしている時間です。
2、精密検査
歯並びや噛み合わせの状態、骨格や歯の生え方などを専門の機器を使用して検査していきます。
歯型の採取や噛み合わせの検査、レントゲン撮影(口腔内・頭部)、写真撮影(口腔内・顔貌)、虫歯や歯周病のチェックなどを行います。この検査を基に、治療の計画を立案していきます。
3、診断と治療計画説明
カウンセリングと精密検査の情報を基に、歯科医師が治療計画を立案していきます。
そのため、カウンセリングから数日から十数日後に再度訪問をしていただき、治療計画の説明を行います。
初診時のカウンセリングでは、おおよそであった治療期間や通院回数、費用、抜歯の有無などもこの時に決定します。
4、治療の準備・治療開始
治療を受けることが決まったら、まずは口腔内の状態をチェックします。
虫歯などがある場合はまずそちらの治療を行い、抜歯の必要があれば処置を行います。
(虫歯、抜歯は当院では行っていないため、かかりつけ歯科医院または提携歯科医院をご紹介致します。)その後、矯正装置を取り付けて治療開始となります。
この様な流れで治療を開始することとなります。
前述のカウンセリングと治療計画の説明の時に質問などをしていただけるので、この時にしっかりと聞きたいことや疑問に思っていることを聞いてもらえたらと思います。
よく聞かれる内容としては以下のようなものがあります。
・治療の開始時期や治療方法(例:舌側矯正か可能か?何歳から治療を開始するのが良いのか?など)
・治療期間や費用(例:結婚式や就職活動までに治療は終えられるか?医療費控除について?など)
・治療中の生活(例:部活動への影響は?発音や食事のしにくさはどの程度か?など)
・転医について(例:転勤の可能性があるが、その際にはどうしたらいいのか?進学で県外に出る予定だが、治療に通うペースは調整できるのか?など)
この他にも、患者さん毎に気になることやわからないことはたくさんあると思います。
ただ、説明を受けながら全て思い出して質問するのは大変だと思いますので、予め聞きたいことはまとめておいていただけるといいのではないかと思います。
また、治療計画の立案にも患者さんの要望などは出来る限り取り入れて進めていきますので、もれなく伝えていただくことでよりスムーズな治療へとつながります。
ひらの矯正歯科では患者さん一人一人のお話をしっかり聞く所から治療が始まると考えています。
それは、一人一人の不正咬合の状態が違うだけでなく、その原因も違い、さらに患者さんご自身がどういった部分を改善したいのかも違うからです。
一人一人丁寧な治療をオーダーメイドで提供するため、出来る限り相談時に質問漏れがない方が良い治療計画と治療提供につながると思います。
勿論治療開始後にもわからないことなどは出てくると思いますので、いつでも遠慮なく質問や要望は仰っていただけたらと思います。
2022/12/10
こんにちは。11月に日本舌側矯正歯科学会に行ってまいりましたので、
今回は、日本舌側矯正歯科学会という学会について紹介していきたいと思います。
“日本舌側矯正歯科学会は、日本での舌側矯正を発展させていくため、
会員相互が意見・技術を交換して、より高度な術式を習得するための場を提供することを目的として10人の有志により、1988年に結成されました。
本会の年間活動では、総会や舌側矯正のタイポドントコースの開催および学会雑誌の発行をおこなっています。対外活動として、アメリカやヨーロッパの舌側矯正学会の総会での発表、ケースプレゼンテーションの支援を行っています。”
(引用:学会紹介 | 日本舌側矯正歯科学会 (jloa.org))
上に書いた内容が、舌側矯正歯科学会HPの紹介文となっています。そもそも舌側矯正とは、本来歯の表側に矯正装置とワイヤーを装着して治療を行っていたものを、歯の裏側に矯正装置とワイヤーを装着して治療を行えるようにしたものです。
昔は舌側矯正で使用する装置もかなり大きく違和感が強い、
治療できる症例が限られるといったデメリットがありましたが、日々の装置や技術の改良により、そういった問題も改善されてきています。
では具体的に、舌側矯正のメリットについても紹介していきたいと思います。
1、目立ちにくい
治療を検討する人の中で、この理由が一番多いのではないかと思います。
上にも少し書きましたが、矯正装置を歯の裏側に装着するため、よほど口を大きく開けたり、意識的に見ようとしないと矯正装置が見えにくくなっています。
最近ではコロナウイルスの蔓延から日常的にマスクを着用するようになっていますので、口元が露呈するのは食事などの限られた時間になってきています。
そのため、見えにくい舌側矯正で治療を行っていると誰にも気付かれないですといった患者さんのお声を聴くこともたくさんあります。
2、虫歯になりにくい
矯正装置を装着していると、ブラッシングがしにくくなります。
そのため、しっかり意識してブラッシングをしないと磨き残しから虫歯になるリスクが高くなってしまいます。
しかし歯の構造上、表側より裏側の方がエナメル質が厚く、虫歯になりにくくなっています。さらに、歯の裏側は唾液の循環も活発なため、唾液の自浄作用で虫歯菌が繁殖しにくくなっています。
この様な観点から、舌側矯正は虫歯になりにくいと言われています。
3、舌癖の防止
上顎前突(出っ歯)の方の多くは、常に舌で前歯を押している癖があります。
口を閉じてリラックスした状態の時には、舌は上の歯の付け根から1センチほど奥に下がったタンスポットといわれる位置にあるのが正常です。舌側矯正では、裏側に矯正装置が付いているので、舌がタンスポットの位置から上に動くことを防ぐことができます。
つまり矯正装置自体が舌癖防止の役割も果たすことになり、装置を外した後の後戻りのリスクが減る可能性が高いです。
この様に、舌側矯正ならではのメリットもたくさんありますが、一人一人オーダーメイドで治療計画と治療を提供するため、技術としては非常に難しい治療です。
そのため、きちんと舌側矯正で治療できる歯科医院は限られていて、今回の舌側矯正歯科学会での発表では、舌側矯正の認定医は全国で65名ほどしかいないとのことでした。
この舌側矯正認定医は、5年ごとに症例(舌側矯正で治療した結果)を発表し症例審査を受ける必要があり、今回私も認定医更新のために症例発表をしてきました。
舌側矯正歯科学会など、専門知識や新しい技術を習得できる場は非常に有意義なため、私も可能な限り参加して知識を向上するように努めています。
皆さんの中で、舌側矯正に関してわからないことや疑問に思うことなどある場合は、いつでもお気軽に質問しに来てください。
しっかりと理解していただくまで説明するように努力しています。