2022/05/02
今回は、矯正治療を受けていく中での患者さんの意識の変化を少しご紹介します。
初めて矯正治療の相談に来られた時に、「あなたはどの様な矯正治療のゴールを思い浮かべていますか?」という質問をしたとします。
明確にこうなりたいというイメージを持って説明ができる人は少ないのではないかと思います。中には、好きな女優さん・俳優さんの名前を挙げて、あのようになりたいという人もいるかもしれません。
この矯正治療のゴールというのが、非常に曖昧で変わりやすいものなので、段階を追って説明していきたいと思います。
まず初めに相談に来られた際に、レントゲンやCTなどを用いて患者さんの今の歯並びの状況を把握していきます。それと同時に治療計画を立てていくのですが、
この時点でどの様な歯並びになりたいかと尋ねると、
多くの人が叢生(デコボコ、乱ぐい歯)や上顎前突(出っ歯)、下顎前突(受け口、しゃくれ)など、今の嫌なところやコンプレックスを改善してほしいと答えが多くでます。
その後、私たち歯科医師は、患者さんの希望を聞きつつ、
使用する矯正装置やテクニックなど治療計画の詳細を考え、説明していきます。
ここで患者さんには希望に沿っているのか、治療を始めるのかといった検討に入っていただきます。
即答できない場合もあると思いますので、ゆっくり考えて返答いただく人もおられます。
矯正治療を受けることが決まると、使用する矯正装置を装着していきます。
(人によっては抜歯など前段階の処置が入ることもあります。)
治療初期は叢生の改善など、前歯の見えやすいところの動きが多いので、ご自身の歯並びが変わってきたという実感を持っていただきやすい時期です。
おそらくですが、今までより鏡の前でご自身の歯を見る機会が増えているのではないかと思います。
治療の中盤以降は、抜歯の隙間を閉じたり、
咬合関係を少しずつ改善したりと見えにくいところの調整を行う時期になります。
皆さんがご自身の歯並びを見慣れてくると同時に、
ちょっとした歯の傾きや前後・上下位置が気になってくる時期です。
治療に来られる患者さんからも、もうちょっとここをこうしてほしいといった具体的な改善の要望を伺うことが多くなります。
もちろん、咬合機能に影響がなく、治療に差し障りがない場合は極力要望に応えられるように努力しますが、どうしてもすべての要望をかなえるのは難しいという内容のものもあります。
その際には、なぜそれが無理なのかということはしっかりとご説明しますので、理解・納得出来るまで質問や要望を仰っていただけたらと思います。
この様に、初めは何となくきれいな歯並びになればいいなという大まかなイメージで、
どちらかというとネガティブな部分を解決したいという意識の患者さんが、
治療の段階に応じてより「こうなりたい!」という具体的なイメージが湧いてくるようになります。
皆さんの審美的な意識が高くなったということなので、
この要望は私たちにとっても非常に喜ばしことです。
機能的改善と審美的改善の両方を踏まえて、
出来るだけ要望にはお応えできるよう努力していますので、
気になることがある時はいつでも仰ってください。
2022/04/06
今回はあまり意識していない人も多いかもしれませんが、
マスク酸欠というテーマでお話していきたいと思います。
新型コロナウイルスが蔓延してから、日常的にマスクをする生活にも慣れてきているのではないかと思います。そんな中、マスク酸欠という事を言葉にしましたので少し掘り下げてみたいなと思います。
ウイルスや花粉など、さまざまな要因から身を守るためのマスクですが、呼吸にとっては障害となってしまう場合があります。単純に呼吸がしにくいというだけでなく、マスク中に自分が吐いた息が溜まり、その空気を再び吸うことになります。その結果として、二酸化炭素を多く含んだ空気が体内に普段以上に流入してくることになります。
また、コロナ禍のストレスで自律神経のバランスが乱れると、交感神経が優位になります。交感神経が優位になると興奮状態と同様に、呼吸の間隔が短くなります。呼吸の感覚が短いという事は1回の呼吸が浅くなり、結果として酸欠の状態に陥りやすくなります。
では、マスク酸欠になるとどの様な症状が出るのかについても見ていきたいと思います。
・片頭痛や肩こり
二酸化炭素は脳の血管を拡張させる作用があり、酸欠の状態が長く続くと脳血管の周囲にあり触覚や痛覚を脳に伝える三叉(さんさ)神経が刺激されます。その刺激によって炎症を起こすことで慢性的な片頭痛の原因になってしまうことがあります。
また反対に、猫背などの悪い姿勢で長時間マスクを着けていると、胸部が圧迫されて呼吸が浅くなり、血液内の酸素濃度の低下など悪影響を及ぼします。そうすると、慢性的な肩こりなどが発症してしまう可能性もあります。
・不安やイライラが増幅
セロトニンという物質は、恐怖や怒りなどの感情をコントロールして精神を安定させる働きがある幸せホルモンと言われています。しかし、脳に酸素が行き渡らないとセロトニンの分泌が滞るといわれており、不安やイライラが増幅されてしまいます。
また、脳に酸素が行き渡らないと集中力や思考力の低下が懸念されますので、運転をするときなど危険作業に就いている人は特に注意が必要です。
この様に、様々な懸念点が挙げられます。ただ、私たち矯正歯科医からするとさらに別の問題もあるのではないかと思います。それは、マスク酸欠になって苦しくなると、ついつい鼻呼吸ではなく口呼吸になってしまうということです。きれいな歯並びを維持するためには、舌や唇の力によって正しい位置に保持するための力が必要になります。つまりマスクの下で口呼吸を続けていると歯並びの悪化が懸念されます。そのためいつも以上に鼻呼吸をするという事をしっかりと意識してほしいなと思います。
長いコロナ禍で、なかなかマスク生活に終わりが見えない状態ですが、マスクをしている間に矯正治療をしてしまおうという前向きに現状を捉えているという人も増えてきています。矯正専門医としてアドバイス出来ることなどもありますので、疑問に思っていることなどある方はいつでもお問い合わせいただけたらと思います。
2022/03/01
今回は、知覚過敏についてお話していきたいと思います。
まだまだ夜の気温は寒い日が続いていますが、
徐々に春の兆しも感じ始められるようになってきたのではないでしょうか。
気温が高くなってくると冷たい飲み物やアイスクリームなどの消費が増えてきますが、
この冷たいものを口にしたときに歯が沁みるという症状が出ることがあります。
虫歯や歯周病などの疾患がない場合、この症状が出たときは知覚過敏である可能性が高いと思います。
では知覚過敏はなぜ起きるのかを説明していきます。
歯は象牙質という柔らかい組織の周りをエナメル質という硬い組織で守っているような構造となっています。
この象牙質には歯の神経まで繋がる象牙細管という無数の細い管が通っており、
その中は象牙細管液という体液で満たされています。
本来であればエナメル質がこの象牙質を守っているため外部からの刺激を受けることはないのですが、何らかの原因でエナメル質が削れてしまい、
象牙質が露出してしまうことがあります。その露出した象牙質に、
冷たいものや歯ブラシなどの刺激が加われば神経までその刺激が届き、歯が沁みるという症状が出てしまいます。
では次にエナメル質がなぜ削れてしまうことがあるのかという原因を紹介していきます。
・歯磨きの仕方が悪い
歯磨きを行う際、必要以上に力を入れて磨いている人は、エナメル質や歯肉に少しずつダメージが蓄積されています。ダメージが蓄積されてくると歯肉が下がってしまい、エナメル質が少ない歯の根元部分が外部にさらされ、その弱い部分の歯が沁みるというケースがあります。
・歯周病の影響
歯周病が原因で、歯肉が下がるということも考えられます。歯周病菌によって歯槽骨が溶けてしまうなど、重篤度が高くなるほど歯が沁みるリスクも高くなります。
・歯ぎしりの影響
慢性的に歯ぎしりをしている人も注意が必要です。エナメル質同士を強い力でこすり合わせることになるため、少しずつエナメル質が削れてしまいます。エナメル質が分厚い部分であっても長い時間をかけて削れてしまうため、早めの改善が必要です。
・その他(原因不明)
上記の例に当てはまらず特に原因が不明なもの。一時的な症状のものなど。
この様に、知覚過敏といってもそれぞれ原因が異なっているため、
しっかりと原因を究明することが大切です。
ブラッシングの精度や歯周病の予防、歯ぎしりの改善など矯正治療で改善が期待できるものもありますので、今現在知覚過敏でお困りの方や、これからの予防策として矯正治療を検討していただくのも有効な手段ではないかと思います。
それ以外にも何かご不明点などある場合は、いつでもお問い合わせください。
2022/02/07
今回は、矯正治療における唇の変化についてお話していきたいと思います。
カウンセリングの際によく、「芸能人の〇〇さんの様な口元にしてください」とか「ハリウッド女優のような笑顔になりたい」という要望を伺うことがあります。
患者さんのご希望にはできる限りお応えできるように努力はしますが、
見た目の変化には個人差が大きく出てくるということは知っておいていただけたらと思います。
特に唇の変化については色々な要素が関係し、同じような見た目の人が同じような治療を行っても見た目は同じにならないことが多いです。
では唇の変化は何が原因で起こるのでしょうか?
・歯並びの変化による唇の変化
矯正治療を行う際、歯並びの改善はもちろんですが、上下の歯の噛み合わせなども同時に改善していきます。上顎前突(出っ歯)や下顎前突(しゃくれ、受け口)の症例の場合、今までは上顎や下顎の歯が唇を前方に押している状態だったのが、矯正治療で歯列が後方に移動し、唇に掛かる力が変わることもよくあります。
また、単純に叢生(デコボコ、乱ぐい歯)の治療でも歯列の変化は起こるため、唇に掛かる力が変化することもあります。
唇に掛かる力が変化するということは、唇の張り具合などに影響を及ぼし、結果見た目の変化が起こります。
・体型の変化による唇の変化
矯正治療中は、柔らかくて噛みやすいものを食べる機会が増えたり、食生活が少し変化しがちです。また、ワイヤー交換の際に少し痛みが生じることもあるので、その期間の食欲が減退するということもたまに聞きます。
そうした生活の中で、患者さん自身の体型に変化が起こってくると、結果として顔の印象も多少変わってきます。
唇もその影響を受ける可能性があるため、患者さん毎に異なる変化が起こりえます。
・加齢による唇の変化
あまり考えたくないというお声も飛んできそうですが、年齢による口元の変化も一つの変化だと言えます。
矯正治療期間は比較的長くなるので、その際に唇の張りや口周りの筋肉による形状の変化も多少起こる可能性はあります。
この様な理由で、人によって見た目の変化は異なるということがご理解いただけましたでしょうか。
ただ、冒頭でも書いたように、矯正治療を専門で行ってきた経験則から極力患者さんのご要望にはお応えできるように努力しますので、もし気になることやご要望がある際には、いつでもお申し付けください。
2022/01/28
今日は犬歯について少し考えていきたいと思います。
ご存知の通り、歯は成人で28本あり、それぞれの歯の役割は違います。
前歯にあたる歯を「切歯(せっし)」と呼び、食べ物を噛み切ったり、
言葉を話す際の発音に影響します。切歯で噛み切ったものを細かくすり潰すのが奥歯で、「臼歯(きゅうし)」と呼んでいます。
臼歯は小臼歯と大臼歯とがあります。
そして今回のテーマ「犬歯(けんし)」は、前から3番目の歯のことを指し、
食べ物を切り裂く役割があります。
歯の中で歯根(歯の根っこ部分)が一番長く強度が高いのが特徴です。
また、犬歯は物を噛む際に顎の動きが正しくなるように機能し、
正しい噛み合わせの位置を保つという重要な役割があります。
乳歯から永久歯に生え替わるのが、だいたい6歳ころから12歳ころで、
個人差はありますが、だいたい犬歯の生え替わりは切歯や臼歯の後になります。
他の永久歯が生えた後に出てくる犬歯は、隣の側切歯(前から2番目の歯)の歯根に沿って生えてきます。
そのような犬歯ですが、近年特に上あごの犬歯が正しい位置に生えてこない方が増えてきているようです。
昔と違い、顎が小さく、1本1本の歯が大きくなっていることから、
犬歯が生えてくるスペースが十分確保されず、歯列からはみ出た状態(萌出障害)になってしまい、
見た目だけでなく、咬み合わせやほかの歯に悪影響を与えることが分かってきています。
(ちなみによく「八重歯」と呼ばれていますが、八重歯は正常な歯列からはみ出ている歯のことを指します。
犬歯が萌出障害になっているケースが多いため、犬歯が飛び出ている状態=八重歯と思われがちです。)
犬歯の萌出障害でこれまであまり知られていなかったのが、
隣の側切歯の歯根吸収です。
歯根とは歯の歯茎に埋まっている部分を指しますが、
歯に余計な力が加わり続けたり、犬歯の萌出障害のように隣接する歯が歯根のセメント質や象牙質を溶かしてしまうことがあり、これを歯根吸収といいます。
永久歯の犬歯が生えてくるときは、上に書いた通り側切歯の歯根に沿って生えてくるため、
その確度に問題があると側切歯の歯根に余計な力を加えながら生えてくることになってしまい、稀に側切歯の歯根吸収を起こしてしまうのです。
人によりますが、歯根吸収は歯根の半分くらい失っても痛みもなく、歯の変色など本人が気づくことはあまりありません。
半分以上歯根吸収が進むと、痛みを感じたり、最悪のケースでは歯が抜けてしまいます。
こういった症状になってしまうケースは、率的にはそこまで多くはありませんが、
犬歯の萌出障害は多くの患者さんで見受けられます。
歯根吸収から歯が抜けてしまうというレベルまでいかないまでも、
咬み合わせにも影響する犬歯の状態は早めに確認しておくことをお勧めしています。
特に生え替わりの時期に歯根の状態もチェックしておくことで、
こういったリスクを防げる矯正治療法もあります。
不正咬合を治して見た目が綺麗で正常な噛み合わせを手に入れる矯正治療ですが、
見えないリスクを防ぐのも矯正治療の大切な目的の一つだったりしますので、
気になる場合は矯正医に相談してみてください。